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代償性発汗とは|ETS手術のリスクと、手術を避ける「注射」という選択肢を医師が解説

代償性発汗とは|ETS手術のリスクと、手術を避ける「注射」という選択肢を医師が解説

多汗症の手術(ETS)を調べると、必ず出てくるのが代償性発汗という言葉です。「手の汗は止まったけれど、別の場所の汗が増えた」——こうした声を見て、手術に不安を感じている方も多いはずです。この記事では、代償性発汗の原因・起こりやすさと、手術を避けたい場合の選択肢を、汗の治療を専門とする医師が解説します。

このコラムのポイント
  • 代償性発汗は、手術(ETS)で汗が減った代わりに、別の部位の汗が増える現象です。
  • ETS後に高い頻度で起こるとされ、程度には大きな個人差があります。
  • ETSで遮断した神経は、原則として元に戻せません。手術は慎重な判断が必要です。
  • 手術を避けたい場合、ボトックス注射やミラドライなど、低侵襲の選択肢があります。

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この記事の監修者
下方 征 院長

下方 征(しもかた ただし)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医/渋谷スクランブル皮膚科 院長

2004年に医師免許取得後、東京医科大学病院皮膚科に入局。同大学病院にて助教を務めるなど、10年以上にわたり大学病院レベルの皮膚科診療・研究・教育に従事。八王子医療センターでの地域中核病院勤務を経て、2022年に渋谷スクランブル皮膚科を開院。一般皮膚科のみならず美容皮膚科領域においても学術的根拠に基づいた診療を行っている。

目次

代償性発汗とは

代償性発汗(だいしょうせいはっかん)とは、多汗症の手術などである部位の汗が減った代わりに、別の部位の汗が増える現象を指します。とくに、手汗やワキ汗に対するETS(胸腔鏡下交感神経遮断術)のあとに起こることで知られています。

たとえば「手のひらの汗は止まったが、背中・胸・お腹・太ももなどの汗が増えた」というかたちで現れます。増え方は人によってさまざまで、ほとんど気にならない方から、日常生活に支障を感じる方までいます。

原因とメカニズム

汗は、交感神経からの指令で出ます。ETS手術は、手のひらなどへ汗の指令を送る交感神経の一部を遮断することで、その部位の汗を止める治療です。

しかし、体は全体で体温を調節しようとするため、遮断された部位で汗が出なくなると、その分をほかの部位で補おうとすると考えられています。これが代償性発汗のメカニズムです。

ETS手術後の代償性発汗のしくみ:手の汗が減る一方、背中・胸・お腹・太ももなど別の部位で汗が増えるイメージ図

起こる確率・程度

代償性発汗は、ETS手術を受けた方に高い頻度で生じるとされています。程度には大きな個人差があり、軽く済む方もいれば、強く出て悩む方もいます。重要なのは、現時点で、代償性発汗を確実に防ぐ方法は確立されていないという点です。

「手術すれば汗の悩みがゼロになる」と単純に考えるのではなく、代償性発汗が起こりうることを前提に、メリットとリスクの両方を理解したうえで判断することが大切です。手術を受けるかどうかは、十分な説明(インフォームド・コンセント)を受けて慎重に決める必要があります。

下方院長

下方院長

手術を検討して情報を集めている方には、「まずは手術以外の方法を試しましたか?」とお聞きすることが多いです。外用や注射、機器による治療で十分にコントロールできる方も少なくありません。手術は、戻せない治療だからこそ、ほかの選択肢を一通り検討したうえで考えるのが安心だと思います。

ETS手術のリスク

ETSは重症で難治の多汗症に対する選択肢の一つですが、知っておきたいリスク・注意点があります。

代償性発汗が高い頻度で起こり、程度には個人差があります。

・遮断した神経は原則として元に戻せない(不可逆)とされます。

・全身麻酔・胸腔内の操作に伴う、手術一般のリスクがあります。

・適応や術式の判断は、手術を行う医療機関で十分に説明を受ける必要があります。

なお、当院ではETS手術は行っていません。手術についてはここでは一般的な情報の整理にとどめ、手術を避けたい方に向けた、低侵襲の選択肢を次にご紹介します。

手術を避ける選択肢=注射・ミラドライ

「手術は怖い」「代償性発汗が心配」という方に検討しやすいのが、切らずに行える、体への負担が少ない治療です。

  • ボツリヌス毒素注射(ボトックス):汗を出す指令を一時的にブロックし、その部位の発汗をやわらげます。効果は数ヶ月で薄れますが、神経を切らないため、合わない場合は元に戻せるのが安心な点です(ワキ・手のひら・顔など)。
  • ミラドライ:マイクロ波でワキの汗腺にはたらきかける、切らない治療です。局所の汗腺に作用する仕組みのため、ETSのような全身性の代償性発汗は起こさないとされています(ワキが対象)。

どちらも自由診療(ワキの重度多汗症に対する注射など、一部保険適用となる場合あり)で、効果・経過には個人差があります。ミラドライのくわしい解説は 「ミラドライ完全ガイド」、ワキの注射は ワキの治療ページ もご覧ください。

下方院長

下方院長

同じ「汗を抑える」治療でも、後戻りのしやすさは方法によって違います。ボトックス注射は効果が数ヶ月で切れるので、まず試してみて合わなければやめる、という気軽さがあります。ミラドライは効果が続く治療ですが、神経を切るETSと違い、全身性の代償性発汗を起こさず・切らずに行えるのが利点です。後戻りできない手術を選ぶ前に、こうした体への負担が少ない方法で十分かどうかを確かめる価値は大きいと考えています。どこの汗が一番つらいかを伺って、一緒に方針を考えましょう。

受診の流れ

  1. カウンセリング・診察:汗の部位・程度・これまでの治療や手術の検討状況を確認します。
  2. 方針の相談:外用・注射・ミラドライなど、手術以外の選択肢を中心にご提案します。
  3. 治療・経過観察:選んだ方法で進め、効果をみながら調整します。

「手術しかないと思っていた」という方も、まずは一度ご相談ください。手術を避けられる可能性も含めて、一緒に検討します。

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よくある質問(FAQ)

Q. 代償性発汗はどうやって治すのですか?

A. 代償性発汗を確実に治す方法は確立されていません。増えた部位の汗に対して、外用薬・注射などで対症的にやわらげる方法を検討します。まずは診察で状態を確認することをおすすめします。

Q. ワキガとの関係はありますか?

A. 代償性発汗は「汗(発汗)」が別部位で増える現象で、ニオイ(ワキガ)とは直接の関係はありません。ニオイが気になる場合は、別の観点で診察・相談が必要です。

Q. 起こる確率はどのくらいですか?

A. ETS手術後には高い頻度で生じるとされますが、程度には大きな個人差があります。確率や程度を一律にお示しすることは難しいため、手術を行う医療機関で十分な説明を受けてください。

Q. ミラドライで代償性発汗は起こりますか?

A. ミラドライはワキの汗腺に局所的にはたらきかける治療で、交感神経を遮断するETS手術とは仕組みが異なります。そのため、ETSのような全身性の代償性発汗は起こさないとされています。

Q. 代償性発汗の原因は何ですか?

A. 手術などで一部の汗が止まった分を、体がほかの部位で補おうとするためと考えられています。体温調節のための体の反応の一つです。


参考文献

  1. 原発性局所多汗症診療ガイドライン 2023年改訂版(日本皮膚科学会)
  2. 皮膚科Q&A 汗の病気―多汗症と無汗症―(日本皮膚科学会)


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